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サステナビリティ

 「私は流行をつくっているのではない。スタイルをつくっているの」

 20世紀を代表するフランスのデザイナー、ココ・シャネルの言葉です。シャネルと言えばマリリン・モンローが愛した香水No.5を思い出す方が多いかもしれません。しかし、それより早くシャネルがつくりだしたもの、それがジャージー(ニット)のドレスでした。20世紀初頭のヨーロッパの女性たちのドレスは、どれもレースで飾り立てられコルセットで締め付けられる窮屈なものでした。ある日、男物のセーターを着てみて体が開放される感動を味わったシャネルは、それまで下着にしか使われなかったジャージー素材で動きやすく着心地の良いドレスを作り、大評判となりました。シャネルが提案したジャージーをアウターに使うという価値観の変換は、単なるファッション(流行)に留まらずスタイルとして現代まで続いています。他にも男物のスラックスを女性用に転用したパンツ・ルックやミリタリー・ルック、喪服の色である黒を普段使いとしたエレガントなリトル・ブラック・ドレスなど、シャネルが初めてファッションに取り入れスタイルとして定着したものは数え切れません。

 1980年代後半以降メディアで喧伝されるようになったサステナビリティという言葉も、単なる流行語ではなくスタイルとして世の中に定着しつつあるようです。地球に優しいライフスタイルを提案するサステナブルファッションをはじめ、エコ家電にハイブリッドカーとサステナブルな製品がもてはやされています。このサステナビリティという言葉は、前回取り上げた「持続可能な発展(sustainable development)」に由来します。この言葉は1987年に国連に答申された報告書「われら共通の世界」で使われました。「将来の世代のニーズを損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」というのがその定義で、これに対する賛同の輪が瞬く間に世界中に広がり、「持続的な発展」の恩恵を受ける企業は、これを支えるために社会的責任を果たさなければならないとされるようになったのです。

 異なる世代間の不平等をなくすというこの定義が広く受け入れられたのは、この言葉が先進国と発展途上国で異なる解釈を可能にするからだといわれています。即ち、発展=開発の時代は終わったと考える先進国は、従来の一方的な開発のあり方を否定し持続可能性の実現に焦点を置きます。対してこれから発展=開発に取り掛かる発展途上国は、開発自体を否定するのではなく、持続可能性の実現に配慮する開発のありようを考えればよいと解釈するのです。開発によって環境破壊が進む可能性が高いことは明らかなのにも関わらず、環境と開発に矛盾はなくむしろ調和すべきだとする「持続可能な発展」という言葉は、利害関係が対立する国際社会にとって大変便利な言葉であり、政治的な色合いが濃い言葉でした。

 たとえ国際的に広く使われる言葉であっても、先日閉会したCOP16の議論のように政治的な意図で玉虫色の解釈が許されるのであるならば、現実的かつ具体的な問題解決の糸口とはなりません。この点が企業の「持続可能な発展」への取り組みの足かせとなっています。しかし、月面着陸したアポロ11号の映像が示したとおり、地球上に存在する誰もが、企業も人間も動物も植物も「地球号」の乗組員=運命共同体で、乗り組む「地球号」は、今、温暖化や異常気象という名の悲鳴を上げているということは紛れもない事実です。

 サステナビリティに取り組むということは、現在と未来の「地球号」の乗組員を守ること、即ち、誰でもない私たち自身の現在と未来を守ることだということを改めて認識することが必要なのではないでしょうか。セキュリティ業界も例外ではありません。

 さて、シャネルの言葉には続きがあります。「流行は色褪せるが、スタイルだけが不変なの」

 「持続可能な発展」に始まる企業のサステナビリティへの取組みが単なる流行ではなく、ビジネスのスタイルとして定着することが望まれます。
(2010/12/25)